超限界斜陽産業『漁業』が(私の中で)めちゃめちゃアツい
3週間、輪島でお魚やら漁業やらについていろいろ学びました!
知らなかったことがたくさんあって、将来が不安になることもあれば、わくわくすることも。そのうちのいくつかをまとめます~
(カバー画像はなんの関係も無いけど、「なんかでっかいことしようとしてんだな!」っていうのを表現したいと思ったのが2割。シンプルに可愛くて自慢したかったのが8割。)
とりあえず、日本の漁業はヤバい
まあなんとなくヤバそうだなって思ってたけど、想像以上にヤバかった。
まず、世界第6位の排他的経済水域を有していながら、漁業生産の成長率が世界一低いのがヤバい(ちなみにマイナス成長なのはたった3か国だけ:韓国が―3.3%、南アフリカが―4.5%、日本は―11.5%)(※1)。
海産物の自給率が56%しかないのもヤバいし、漁師さんの平均年齢が56.9歳なのもヤバい(ちなみに約40%が65歳以上)(※2)。何より、一般国民(私も含め)がそのことについて無関心なのが相当ヤバい。
「どうしてこんなに問題が山積みなの?」って思って色々な文献を調べてみたけど、単純に「これが理由!」ってものはなくて、色々な要素が複雑に絡み合ってることが分かった。
だからといって「じゃあ無理じゃん、終わり!」ってあきらめるわけにもいかないので、いくつか具体的な問題を挙げてみようと思います。少しでも現状が紐解けたら、何か解決の糸口が見えるかもしれないしね!
お魚の人気の一極集中
最近の人気お魚ランキング、1位はサーモンで2位はまぐろ。3位はブリ(※2)。どれも私の大好きなお魚!きっと、多くの人も納得の結果だと思う。

一般家庭で消費されるお魚の62%は、この3つが占めています。
特に一番人気のサーモンは27%。圧倒的人気。爆モテ。魚界のアイドル。
でも、この「人気」の偏りによって生じる問題もあるんです。
例えば、まぐろ。

まぐろは最近海外でも人気度が増していて、ワールドワイドアイドルとなっているため、高値で取引されます。高く売れるとなればたくさん捕まえたくなってしまうのが人間で、近年では乱獲されないように制限も設けられています。
「制限があるなら、乱獲される恐れはないんだね!よかった!」と思ったら大間違いで、「海で獲れないなら1から育てちゃおう」という方向に走り、今では養殖も盛ん。2002年には近畿大学水産研究所が世界で初めて(!)マグロの完全養殖に成功しています。
でも、この「養殖」にも問題があって、美味しいマグロを育てるためには餌となる魚が必要になるんです。
マグロを1キロ太らせるためには15~20キロの魚が必要とされています。つまり、マグロを60キロ太らせようと思ったら約1トンの魚が必要になる。
では、その餌はどこから来るのでしょう?
もちろん、海からです。マグロは人工的に栄養を固めたような餌を好まないから、生のお魚を餌にしなければならない(※6)。WWFによると、海で獲れるお魚の1/3は加工品となり、そのほとんどが養殖の餌に使われているそう。(※3)
つまり、人気のあるお魚を育てるために、他のお魚を犠牲にしているということ。「犠牲にしている」というと大げさに思われるかもしれませんが、餌となる魚の中にはまだ子どもを生んでいないお魚も多数含まれており、海の資源の減少に繋がっているんです。
ものすごい資本主義の闇を感じませんか…?高く売れるものに注力するあまり、環境への負担が見えなくなっているのが現状です。
お魚の人気の偏りで生じる問題は、もちろんサーモンにも。

2020年に日本国内で獲れたサケは5.3万トン。海外からの輸入は25万トン。海外からの輸入の内訳を見てみると、その60%はチリが占めています。(※2)
つまり、日本で扱われているサーモンの約50%はチリ産だと言える。
ところが、このチリでのサーモンの生産過程には問題があることが指摘されています。
もっとも大きな問題は、チリではサーモンを大量に育てるために、大量の抗生物質を投与していること。ノルウェーでは1トン当たり0.17gですが、チリでは1トン当たり最大950g。その差は5588倍。(※4)
チリでは政府や第三者機関による監視・管理体制がしっかりしていないから、こういうことが起こってしまうそう。もちろん、ちゃんとルールを守っている養殖所もありますが、それがどのぐらいの割合なのかもわかっていない。
国際的なNPO、Oceanaの発表ですが、「さすがに嘘でしょ…?」と思わず疑ってしまうほどの数値。英語記事だったので、私の読解力に問題があるのでは…?と3回読み直しました。
けど、残念ながら私の読解力に問題は無かったようなので、この数値は現実として受け止めなければいけないのですが…。抗生物質が大量に投与されるとどんな問題が起こるのか。
ワシントンポストの記事を読むと、「抗生物質を使いすぎると、抗生物質に耐性を持つ強い菌が生まれる可能性がある」とか。つまり、人間が病気になった時に、どんな薬を飲んでも治らない最強の菌が生まれる可能性があるということ。(※5)

「でも、それはあくまでも”可能性”の話でしょ?」と思いたかったのですが、残念ながら2016年にアメリカでその「最強の菌」が発見されているそう…。ヤバくない?怖くない?
ワシントンポストには「今まで簡単に行われていた手術が死活問題になる可能性もあるし、なんてことないレベルの菌が世界的な脅威になる可能性も出てくる」とまで書いてありました。
2年前の自分なら「まあ可能性の話だし…」と受け流せたかもしれないけれど、コロナ禍という未曽有の事態に陥っている今となっては、他人事として受け流すことが出来ない。「可能性」はいつだって実際に起こり得るし、自分が被害を受けることだって十分にある。
自分がコロナになったわけではなくても、生活が一変した人も多いはず。きっと今は多くの人がこの「最強の菌が誕生する」ことの怖さをわかるんじゃないかな(※7)。
お魚の話をしていたはずなのに、いつのまにかコロナとか病気の話になっていて驚きますよね。私も驚きます。私たちの日常で当たり前に触れている「お魚」が地球規模の問題を含んでいたんだから。
お魚人気の一極集中には、こうした問題が含まれているんです。
どうして乱獲してしまうのか
また、お魚の一極集中に関連してくるのが乱獲問題。
資源の減少にはいろいろな理由があるけれど、乱獲もそのうちのひとつ。
けど、「資源が減っている!」とか「乱獲がいけない!」とか言われて結構経つのに、どうして乱獲が止まらないのか。資源が減っていることを漁師さんが知らないはずもないのに。
理由の一つは、監視・管理体制が確立していないことだと思います。日本の漁業法は1949年以来、約70年間変わっていなくて、2018年にやっと改正されたってレベルの代物。時代錯誤も良いところ。スマホで何でも買える、誰とでも会えるっていうこの時代に、インターネットすら無かった時代のルールを適用しているんだから相当ヤバい。
地球の環境も、世界的な資源の管理方法もいろいろと変わっているのに、それに乗り遅れていたら、そりゃ資源量も分からず、乱獲だって起こりえますよね。

もう一つの理由は、漁師さんたちが生計を立てるために利益を優先してしまうから。
先に少し触れたマグロなどがいい例で、小魚を売るよりも、それでマグロを育てて売った方が高くつく。だからどんどん魚を獲ってしまう。群れで行動している魚を獲るのが一番効率が良いから、子どもを生んでいない魚も全部まとめて捕獲してしまう。
漁師さんたちも、資源が少なくなっていることは気付いていると思いますが、生計を立てるためには仕方がない。
私たちが漁師さんたちに向かって「乱獲をいますぐやめろ!」というのは簡単ですが、そのあとに言われる言葉はきっと、「消費者がそれを求めているから、仕方ない」。利益率の低い魚をたくさん売るよりも、人気のある魚を育てた方が楽だし消費者も喜ぶから。そういう話になるんですよね。
漁師さんを責める前に、まずは人気の魚ばかりに固執するこの市場原理の異常さに疑問を呈するべきなのではないでしょうか。
そんなわけで、暗~~~~~~い話が続いていますが、ここで明るい話を!
漁業の新しい常識が輪島から始まる???
簡潔に言うと、輪島発の冷凍魚がアツいって話なんですけど。
私が輪島で出会ったのが、PF機という、まあとりあえずすっげぇ技術の結集みたいな機械を使った冷凍魚なんですが、これが本当にすごくて、
①臭みナシ、 ②冷凍なのに新鮮(刺身でも食べられちゃう!)、 ③冷凍劣化・解答劣化がほとんど無い(ドリップが全然でない!)、 ④再冷凍しても美味しい、 ⑤火の通りが早いし油跳ねも少ないっていう…
とりあえず「本当に冷凍魚????」な革新的冷凍魚。
調理もすごく簡単で、料理初心者の私でも美味しい魚料理が作れちゃう。

このお魚の何が一番革新的って、『(消費者のたくさんいる)東京・大阪などの都心から遠い地方で獲れたお魚も、美味しく食べられる』ということ。
お魚は鮮度が命だから、都心から遠い漁村はどうしても不利になってしまうんだけど…。冷凍魚なら腐ることも無いから、地理的に不利益を被ることも無い。
東京から遠く離れた漁村で獲れた美味しい天然魚が、美味しいまま東京の家庭に届くようになるんです。
そんな革新的冷凍魚が輪島から誕生しているんだけど、もうひとつ個人的にアツいと思ったのが、EU向けHACCP(ハサップ)に向けた取り組み!

HACCP(ハサップ)は安全・衛生を管理する手法のこと。生産から消費者の手元に食品が届くまでのあらゆる段階での衛生管理をしよう!って感じ(詳しくはこちら)。
…なんだけど、これがEU向けとなるとめちゃくちゃハードルが上がる。ヨーロッパの人(とかNPO・NGO)は安全性や環境への配慮にすごく厳しいから。
日本の漁業でEU向けHACCPのガイドラインをクリアしようと思っても、まず船が港に着く段階で「鳥が飛んでて、いつフンが落ちてくるか分からない」と言われてアウト。でも、空に飛んでる鳥なんて防ぎようが無いし、本格的に防ごうと思ったら大きな屋根を作ったりしなきゃいけなくなるし…。要は、天然魚の漁業でEU向けの基準に合わせるのはほぼ不可能。もし本気でやろうと思ったら何億っていう莫大なお金がかかる。マジで無理。
と、普通の人は考えるはずなのに、この不可能に挑戦しようという取り組みが、行われているんです。
「消費者に届くまでの過程をぜんぶ1から作っちゃえばいいんじゃない?」
というのが解決策に向けての糸口。マジで港から作るつもりです。
信じられないけど、その手があったか!って驚きもある。
これって、小さいからこそ出来ることなんだろうなとも思いました。既に出来上がっている大きな港では絶対に出来ないことを、日本の端にある小さな漁村が成し遂げようとしている。
めちゃめちゃアツいなって思った!日本も漁業も捨てたもんじゃないね!
長くなりましたが、これが私が輪島で見て、聞いて、驚いたり感動したことたちです!
漁業の将来に関して悲観的になってしまいそうなことも沢山あるけど、「希望あるじゃん!」って思えることもたくさんありました。希望の割合がもっともっと増えていったらいいなあと。
